我が国の医療現場の情報システムは、医事会計システム、臨床検査システム、オーダエントリシステムから経過記録全般を電子化した電子カルテシステムへと発展してきました。この過程では、伝票入力システムがそのままIT化され、さらに日付ベースの日記のように記載してきた診療録がそのままのスタイルでITシステム化されているため、両者の連携が希薄であり、患者状態と医療行為との関連性が記録できていません。
また、紙の診療録管理時代と同様に、電子化された医療情報も医療機関単位で管理されているため、医療機関を超えてひとりの患者情報を横断的に管理できていません。患者が自分の情報を当たり前のように参照・管理できることも前提にされていません。そのため、自分の受けた医療の情報を別の医療機関で使ってもらうこともままなりません。
一方、蓄積された電子診療情報と連動した意思決定支援システムや構造的にデータを参照するシステムを、それを得意とするベンダーが開発して追加組み込みできる機能が不足しているため、IoTデバイスからのデータ取り込み機能を始めとするさまざまな先進テクノロジーを電子カルテに組み込むには莫大なコストがかかります。結果として医療現場はますます情報を必要としているにもかかわらず、情報だけが増加し、効率的な利用ができなくなりつつあります。
こうした状況は患者にとっても医療現場にとっても、そして社会全体にとっても改善する必要があります。そのためには既存の医療情報システム同士をつなぐ、あるいは既存のシステムに姑息的に改修を加えるといったこれまでのアプローチではなく、まったく新しい発想で、今後の健康医療記録システムを見据えて、共通のプラットフォームを開発する必要があると考えられます。
健康医療情報を医療機関単位ではなく患者単位で永続的に記録管理でき、患者自身も医療者もその記録情報を安全に効果的に利用でき、患者状態の記録と医療行為の記録とが相互に意味的に関連づけられ、結果として効率的に研究開発などの二次利用にも対応できる次世代電子カルテシステムが求められています。
この次世代電子カルテシステムは、発展目覚ましい新しい技術を柔軟に活用でき、多くのソフトウエアベンダー、ハードウエアベンダーそれぞれがその得意技術を少ないコストと低い障壁で導入でき、機能拡張性が高い次世代健康医療記録システムとして、医療の場や社会全体に導入されていくことが望まれます。
そのために、日本医療情報学会次世代健康医療記録システム共通プラットフォーム課題研究会で提唱する①本人主体管理、②本人・医療提供者間での情報共用、③自他共栄、を基本コンセプトとする、次世代健康医療記録システムを実現することをめざし、ひとつのシステムを多くの企業の得意技術の集合体として実現できるような、まさに「次世代の」共通プラットフォームを構築し、これからの医療に貢献できるよう、多くの関係者が叡智を結集して取り組むことをここに提案し、「次世代健康医療記録システム共通プラットフォームコンソーシアム( 略称:NeXEHRS コンソーシアム)」を設立しました。